五所川原の夜

もう何年も前の話です。

例のごとく僕は鉄道写真を撮るために旅行に来ていました。

休暇を利用して冬の青森に。

一月か二月だったと思います。

まもなく運行終了になるブルートレインや津軽鉄道のストーブ列車を撮影しにきていました。

雪の中を走る列車は僕が一番好きな鉄道風景です。

その日の撮影を終えて予約してあった五所川原駅近くのビジネスホテル戻ってきました。

お腹が空いたのでどこかにご飯を食べに行こうと思ったのですが、

結構夜遅くだし雪もたくさん積もっていたのであまり遠くには行きたくない。

ネットで検索するとあまり良さげなところがありません。

さらにGoogleマップで探すと少し歩いたところにラーメン屋を発見。

まだ店は開いてそうです。

口コミも悪くありません。

早速荷物を置いて夜の雪道を歩いていくことにしました。

地図を頼りに行くと見えてきました。

そのラーメン屋は古いバスを改造しそれを店として使っているようでした。

中に入るとカウンターがありその向こう側が厨房になっていて店の主人が一人。

主人は白髪で歳は70くらいでしょうか。

そしてカウンターの席には客が一人。

スーツをきたサラリーマン風の中年男が食べかけのラーメンを横にカウンターテーブルに顔をうずめるように突っ伏して寝ています。手には箸が握られたまま。たぶんかなり酔っぱらっていると思われます。

ラーメンのどんぶりにはまだ麺とスープが少し残っています。

僕はその男から一つ二つ離れた席に着きました。

何ラーメンだったかは忘れちゃいましたが、あさっり系の醤油か塩ラーメンだったと思います。

注文してしばらくするとラーメンがでてきました。

寒い日、しかもお腹はペコペコ。

麺とスープが冷えた体にしみわたります。

主人はしばらく厨房内で仕事をし、ひと段落したのでしょうかカウンターの外側へ出てきました。

どんぶりの横で熟睡している男のとこまできて

握ったままの箸をその手からそっと抜き取りました。

スープの入ったどんぶりもそっと取り上げ男に一言二言声をかけ、

寝ている男を無理に起こすこともなくどんぶりと箸以外はそのままの状態にして厨房に戻っていきました。

その時の主人のしぐさがとてつもなく優しい態度に見えたのです。

カウンターで熟睡する息子ほど歳の離れた客にいらだつでもなくビジネスライクな冷たさもなく

とても暖かく見守るような優しいしぐさに見えたのです。

ラーメンを食べスープを飲み切り僕は店を後にしました。

例の男はまだ寝ています。

あったかいラーメンとあったかい主人のしぐさがいつまでも印象に残り今でもなぜか時々思い出すのでした。

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