現在世界に飛んでる旅客機・貨物機のほとんどはパイロットが2人(長距離の場合は交代用に3人または4人)で運航しています。
近年のパイロット不足と旅客・貨物需要の急増で航空会社や航空機メーカーには旅客機をパイロット2人ではなく1人体制、ワンマン運航にしようとする動きがあります。
電車のワンマン運行は増えてきたし
ゆりかもめなんて運転手すら乗ってない無人だし
AIもインターネットも発達してきたしそろそろここらへんで飛行機もワンマンまたは無人でどうですか
パイロットなんて巡航中はすることなくてどうせ暇なんでしょ
海外旅行したいお客さんはいっぱいいるのにパイロットが足りないだけでビジネスチャンスを逃すのはもったいない
パイロットを1人にすれば人件費が浮くのでその分儲かるし
そんなわけで旅客機のパイロットを2人から1人にしてしまおうじゃないかという流れです。
しかしながら飛行機の完全ワンマン電車化はおそらく数十年先、30年~50年くらい先になるのではというのが筆者の意見(予想)です。
テクノロジーの進化する加速度がものすごいので年数はもっと早まるかもしれません。
が、それでもやはりパイロットを完全に1人にするには数十年はかかると思います。
なんで旅客機のパイロットをすぐに2人体制から1人体制、ワンマン運航にできないのでしょうか。
ここでは現在操縦に2人必要とする旅客機・貨物機がなぜ完全ワンマン運航をすぐにできないのか、その理由を解説します。
※もともと1人で操縦できるようになっている小型機や戦闘機は除きます
※完全1人体制ではなくコックピット内に2人とどまり1人が操縦、もう一人には睡眠(休息)をとらせて離着陸時、緊急時は2人で操作できるという形、または長距離飛行での交代要員を含むパイロット3人を2人に、4人を3人にしての運航は数年後に始まる可能性があります。ここでは完全ワンマン運航がとても難しい理由についてご紹介しています。
現在飛んでる飛行機は1人で操縦できないのか
現在飛んでいる旅客機は1人で操縦することはできないのでしょうか?
結論:できます。ものすごく安全性の低い状態で。
想像してみてください。
お客さんをぎゅうぎゅうに乗せた大型バスの運転手が東京都内の交通量が多い狭くて複雑な道を運転しながら携帯電話でガッツリ会話し、かつカーナビ画面を見ながら操作しているところにお客さんが後ろからなんかごちゃごちゃクレームを言ってます(゚Д゚;)そして外は雨が降っていて夜だったら、、、
あ~乗りたくないですね。こんな感じのバスは。怖すぎます。
旅客機を一人で操縦するとおそらくこんな感じになってしまいます。
危なくてしょうがない。
休日に旅行へ行くときにたまたま乗った飛行機のパイロットの1人がもしも急に病気なり操縦ができなくなってしまった場合、現状はどうなっているかというと「緊急事態(EMERGENCY)」を宣言してできるだけ早く緊急着陸することになっています。なぜなら残りのパイロット1人では安全性が極端に低い状態になってしまうからです。
そんなわけで現状、操縦に2人必要な飛行機を1人で操縦することはとても危険なものとされています。緊急事態以外で一人で操縦することはできません。
飛行機を作り替える必要がある
現在世界中に飛んでいる旅客機はほとんどがパイロットが2人で操縦するようにできています(一部の古い飛行機や特殊な大型貨物機を除く)。ボーイング、エアバス、エンブラエルなど各航空機メーカーが製造している旅客機・貨物機は全て2人で操縦する飛行機です。
現代の技術なら旅客機を離陸から着陸まで無人での遠隔操縦、または1人操縦で飛ばすことは可能かと思われます。現に軍事用の偵察機や攻撃機には遠隔操縦の無人航空機(ドローン)が飛んでいます。ジェットエンジンを搭載し高度は数万フィート、機体の大きさも10m以上あるかなり大きなものもあります。
ですがこれらパイロットが乗っていない無人の航空機が遠隔操縦で飛行できるのは万が一事故や故障が起きて墜落しても搭乗員に被害が出ることがないからです。また無人であること自体が使用目的である軍事用に適しています。
通常時、旅客機のパイロットは2人で別々の作業をしています。
機長、副操縦士の役割とは別に、1人が操縦している時(操縦者はPF : pilot flyingと呼ばれます)はもう1人は操縦者の監視役、機器の監視と操作、そして無線を担当します(こちらをPM : pilot monitoringと呼びます)。操縦は機長がすることも副操縦士がすることもあります。
またコックピットに並んでいる沢山のスイッチ類を触ってよい範囲もPFとPMで分担しています。操縦に直接関係あるスイッチ類はPF、それ以外はPMとなっています。いっぱいありすぎて1人じゃできないからですね。ですが絶対に自分のエリア以外を触ってはいけないわけではなく何かの都合でどちらかが忙しくなればお互いに助け合いスイッチ類の操作や作業をします。操縦や無線、監視も同様です。
こちらはボーイングB777のコックピットの操作パネルです。左席に座る機長がPF(操縦)を、右席に座る副操縦士がPM(監視役)をする場合のそれぞれが主に操作する範囲をざっくりと赤と青の丸で示しました。
赤〇がPF、青〇がPMの操作するエリアです。いっぱいありますね。
もしもコックピット1人になってしまい操縦することになれば全エリアを1人ですることになります。
故障や緊急事態になると操作するスイッチ類や作業量は激増します。管制官と無線でおしゃべりしたり客室乗務員との機内電話もする必要があります。
操縦桿を握ったままでは物理的に届かないスイッチなんかもあります。
故障の内容によっては通常使用可能な自動操縦(Auto Pilot)が使えなくなりマニュアル操縦(パイロットが飛行機を手動で操縦)が必要になる場合もあります。※自動操縦の故障、操縦関係のコンピュータの故障など
伸びる手が8本くらい必要かもしれないですね。
こんな感じでコックピットの機器は2人で操作するように設計されています。他の機種もほぼ同じような配置になっています。
1人で操作するには手が足りないのでAIなどコンピュータの補助が得られるなら可能かもしれませんが大幅な設計変更が必要になります。また安全性を保つためには地上から遠隔での支援も必須となってくることでしょう。
つまりは飛行機の機器類を全てといっていいほど作り替える必要があるわけです。
規則・免許・資格・訓練制度の全て変更が必要
現在世界中の航空会社の旅客機の運航にかかわる規則や免許制度は全て2人での操縦を基本としています。
ワンマン運航にするためにはこれらの規則を全て変更しなければいけません。
旅客機の免許を取得する際の訓練ももちろん2人で操縦する飛行機を前提に行われます。訓練では操縦技術はもちろんですが、パイロットのミスによる事故や重大インシデントを減らすために機内でのスムーズな連携や外部からの情報をパイロットがうまく活用して安全に運航することが最近ではとても重要視されています。一人で判断してしまうと錯覚や思い込み、勘違いなどでミスをする可能性が高くなるからですね。
パイロットの訓練で使用されるシミュレータ(模擬飛行装置)では実機では危険すぎてできない火災やエンジン故障など様々な緊急事態の訓練が主に行われます。もちろんパイロット2人が協力して問題解決のための対処をしていきます。前述の通り緊急事態が発生すると1人ではとても対処しきれません。
完全ワンマン運航をするには新しいワンマン運航用の機体のシミュレータを使って1人で全て対処する訓練も必要になってきます。
ワンマン運航のための規則や訓練、免許制度変更には各国の航空局、ICAO(国際民間航空機関)、航空会社、航空機メーカーなどすべてが足並みをそろえる必要があります。世界の空はつながっているので一カ国のみで進めて別の国へ飛んで行ったらワンマン運航できませんでは意味がありません。世界中の国が賛同して変更するにはかなりの時間と労力、コストもかかってくるものと思われます。
1人のみで意思決定と操作は危険
2015年3月24日、衝撃的な事件が起きました。
ドイツの旅客機のパイロットが操縦室に一人になったすきに乗客もろとも山に突っ込んだというものです。
この事故では機長が操縦室を離れて副操縦士が操縦室内に1人になりました。副操縦士はドアをロックし機長を中に入れないようにしてしまいました。
その後、この副操縦士は意図的に飛行機を山に衝突させました。
こんな感じで精神に問題があるパイロット1人が操縦を独占してしまうと誰もそれを止めることができません。もしパイロットが一人にならなければこの事故は防げていた可能性もあります。
もしもワンマン運航で飛行機に1人しかパイロットが乗っていなかったら、そしてそのパイロットは精神的に健康ではないのに飛行機のコントロールを一人の意思のみで動かすことができてしまったら、、、、誰が止めるのでしょうか?
本当にワンマン運航にするのであれば万が一、飛行機が異常な動きをしたら自動で正常に戻して緊急着陸する機能が必要です。また1人しか乗っていないパイロットの心身に異常があった際にも自動または遠隔で強制的に安全に着陸させる機能が必要です。飛行中は常にパイロットの健康状態、心理状態のモニターが必要というわけです(どうやってするかはわかりませんが、、、)。
乗客がワンマン運航の飛行機には乗りたくない
つらつらと見てきましたがなかなか完全ワンマン運航をするにはなかなかハードルが高いことがわかっていただけたかと思います。
さらに忘れてはならないのがお金を払ってチケットを買って楽しみにしていた旅行のために飛行機に乗るお客さんの心理です。
いくら航空会社が「絶対大丈夫です。うちの飛行機は万が一の際には自動で着陸する機能が完璧に飛行機を操縦してくれます」と言っても、、、
技術的にはワンマン運航、または無人での運航は可能とわかっていてももしもなにかあった時のことを考えると不安が大きいのではないでしょうか。
もし一人しか乗っていないパイロットが病気になってしまったら、
もしエンジンが故障してしまったら、
本当に大丈夫なんだろうか、、、、って思てしまうのが普通だと思います。
ワンマン運航だろうが無人運航だろうがお客さんが本当に大丈夫だと思えるにはかなり長い期間の実証実験、それも様々なシチュエーション、様々なタイプの飛行機、空港、気象、故障発生時の対応についての実証実験を重ねる必要があると思われます。
エンタープライズ号もワンマン運航ではない
完全に余談ですが、映画「スタートレック」にはエンタープライズ号という宇宙船が登場します。
こんな感じの形↓
エンタープライズ号は未来の乗り物で架空の宇宙船です。
西暦2200年とか2300年とかの未来の話です。
光の速さの何十倍も早く飛べてワープもできてしまいます。
バリバリのコンピュータ制御で高度な乗り物です。
映画観てない方は是非
そんな未来の宇宙船ですら艦長以下大勢の乗組員が乗っています。
もちろん現代の旅客機とは全くの別物ですし宇宙船です。
何百人も乗れる大型で敵とも戦わなければならないので高性能の武器も搭載しています。
大勢必要なのはわかりますが、
数百年後の未来においても最終の意思決定は人間が行い操縦も複数の人がかかわっています。
ワンマン運航でも無人でもありません。
こんな未来でもワンマンじゃないのにこの数年でできるのか?と思ってしまいます。
あ、これは映画の話でしたね(;^ω^)
まとめ
現在飛んでいる旅客機や貨物機をすぐに「完全ワンマン運航」化がとても難しい理由としては、
- より高度な安全性を保つように飛行機を作り替える必要がある
- 世界中の旅客機に関する規則、免許制度、訓練制度を変更する必要がある
- 一人のみが意思決定と飛行機のコントロールをするのは危険すぎる
- お客さんの心理的抵抗が大きすぎる
- エンタープライズ号ですら大勢の乗組員がいる
こんな感じでまだまだ完全ワンマン運航には多くの課題があるので数年では難しい、数十年かそれ以上かかるのではというのが筆者の意見です。
少なくとも地上の乗り物で完全自動運転が可能になりその後、飛行機でも完全自動無人運航が可能なくらいに安全性が向上されお客さんの心理的抵抗がなくなってきたころにやっと飛行機での完全ワンマン運航が可能になるのではと思います。その頃にはパイロットはほぼ機器の監視業務のみという形になっているかもしれません。
未来を予測するのは難しいですが、あーでもないこーでもないと色々と考え失敗し長い年月を経て結局は人間が最終的に意思決定をしそれもワンマンではなく大勢で意見を出し合い、またAIなどのコンピュータの力を借りながら一番良い結果に導くのがいいのではないかという結論に到達するような気がします。今のところ。