Y崎さん

今から数年前になりますが、

僕の古くからの知人、正確には父の友人、Y崎さんが天国へ旅立ちました。

70代なかばでした。

Y崎さんは父の美術学校時代の同級生で僕が物心つくころにはうちによく遊びにきていました。

子供の頃、僕が一番影響を受けた人と言っても過言ではありません。

Y崎さんは一度も就職したことがありません(僕の知る限りでは)

結婚もしていないし、もちろん子供もいません。

クルマの免許も持っていないし、

ラジオ以外の電化製品も持っていません。

高価なものは何一つ持っていません。

うちへ遊びに来るときは自転車に乗って数時間の道のりをやってきます。

山奥に小さな一軒家を借り、一人で住んでいました。

時々絵を描き、散歩をし、時々電車に乗って旅に出ていました。

時々知り合いのところでアルバイト的な手伝いをしてはいくらかのお金を稼いでいたようです。

僕もY崎さんの家に何度も遊びにいったことがありました。

家はちょっとした山のちょっとした森の中にあり住宅街からは離れていました。

今でいう古民家っぽい造りで土間があり、6畳ほど畳の部屋が二つと台所。

電気と水道は通っていましたが、電話はありません。テレビももちろんありません。

トイレがなかったので外に小さな小屋を建て自分で穴を掘り作ったと言っていました。

家の前には小さな畑があったのでトイレからの収穫は畑に撒き、畑からの収穫に貢献していました。

そんなY崎さんのことを僕は慕っていて何度か2人で小旅行にも行きました。

鉄道好きだった僕に合わせて鉄道写真の撮影にもつきあってくれました。

近所にあった池に釣りにもよく行きました。

その頃の写真が今でも実家に残っています。

Y崎さんの旅のスタイルはリュック一つ、日本酒の入った水筒、そしておつまみの煎った大豆と煮干しが入った小さな缶。

見た目が変わっているのでよく警察から職務質問を受けていたらしいのですが、

「水筒に入れている液体はなんだ?」との問いに

「命の水です」と答えたそうです。余計に怪しまれそうですが。。 

そんなスタイルで全国にいた友達を頼っては各地を時々旅していました。

僕も鉄道旅と写真が好きだったので各地へ旅していましたが、その途中で待ち合わせて会ったこともありました。中学生の頃、撮影の途中寄った東京ではY崎さんのお姉さんがやっている浅草橋のラーメン屋でラーメンをごちそうになりました。Y崎さんはちゃっかり厨房に入り手伝いをしていました。

そういえばY崎さんの食生活も一般的なそれとは一味違うものでした。主食は豆腐と酢。そして日本酒。魚以外の動物性たんぱく質はほとんど食べません。お米も食べません。醤油やドレッシング、砂糖などもほとんど使いません。その他は野菜、そして散歩の途中で採ってくる山菜なんかをよく食べていました。一緒に散歩に行くとふと立ち止まり草をちぎりちょっと口に含み「ん、これは食べれる」と言って収穫し家に持ち帰るのでした。

小学6年生の夏休み、Y崎さんと父、僕と僕の友人の4人で琵琶湖一周2泊3日自転車の旅をしたことがありました。全員がカッコいいロードバイクなどではなくママチャリ的な感じの自転車で。それなりに荷物が多かったので父とY崎さんの自転車の荷台にはテントやその他の荷物をくくりつけてのんびりとしたサイクリング旅行です。早朝に滋賀県南部を出発し夕方には琵琶湖北西部の砂浜に到着。明るいうちは琵琶湖で泳ぎ夜はキャンプ。焚火を囲みご飯を食べテントで寝る。いい思い出です。2泊目もそんな感じで琵琶湖をぐるっと時計回りした3日間の旅でした。

僕が高校に進学する頃になりだんだんとY崎さんとは交流がなくなり、うちにも遊びに来なくなりました。どうしてそうなっていったかはよくわかりません。そしていつの間にか北海道の知人女性の家に転がり込み暮らすようになりました。その女性が恋人だったの内縁の妻だったのか、はたまたもっと別の関係だったのかは聞けませんでした。

最後にY崎さんと会ったのはY崎さんが天国へ行く数年前、父と一緒に旭川の彼らが暮らす家を訪れた時でした。Y崎さんはそのさらに数年前に転んで腰を骨折してからあまり以前のようにシャキシャキと歩くこともできなくなり、背も昔の高かった印象にくらべるとすっかり小さく縮こまった感じになっていました。そして昔のように大きな声で明るく話すY崎さんとはかなり違う印象でした。

昔Y崎さんが住んでいた山の中の家の部屋にはY崎さん本人が描いた絵が飾ってあったんですが、とても変わった海と波の絵でしたがどこにもない作風は絵のことなんかよくわからない子供の頃の僕にも強く記憶に残っています。

何度も一緒に旅行にも行ったのに結局Y崎さんがどんなことを何を思い、どんなことを考え、暮らしていたのか。幸せを感じて生きていたのかそうでないのか。深く話したことは一度もありませんでした。なので本当のところはY崎さん本人にしかわかりませんが、まだ自分を取り囲む世界が周囲のほんの小さなエリアだけだった子供時代の僕には明らかに別世界からやってきた「自由」な人物そのものでした。そっくり同じような生き方をしたいと思っているわけではないですが、僕の人生に強く影響を与えていることには違いありません。

お酒を愛し、自然を愛し、とても自由だったY崎さんを忘れないよにメモがてら書いておくことにしました。

みなさんが影響を受けた人ってどんな人でしょうか。

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